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ライトノベルを中心に活動中の作家、空埜一樹のブログです

曖昧ゲームコラム7:熱血高校ドッジボール部

熱血高校ドッジボール部

発売日時:1988年7月26日
発売元:テクノスジャパン
対応機種:ファミリーコンピュータ

 

以前の記事で、ゲームはコミュニケーションツールとしての側面があると書いた。
だけどそれは、必ずしもプラスだけを生み出すわけではない。
時に争いを生むことだってあるのだ。

熱血高校ドッジボール部は、「くにおくんシリーズ」と呼ばれるものの一つだ。
元々「熱血硬派くにおくん」というタイトルのアクションゲームが存在し、そこでは最強のツッパリ(もはや死語だが)であるくにおくんがライバル高校を相手に大暴れしていた。
そのくにおくんが、何故かよく分からないが級友と共にドッチボールを始め、よく分からないが世界へと飛び立ち、更に分からないことに外国チームと命をかけたルールで戦いを繰り広げることになるのが、「熱血高校ドッジボール部」というゲームの内容だ。
分からないものを分からないものと分からないもので挟み込んだ物凄いハンバーガーなわけだが、当時は少なくとも、くにおくんというシリーズでは当たり前のことだった。
当初はツッパリ最強伝説のはずだったくにおくんは、乱闘妨害なんでもアリの運動会を行なったり、ゴルフをしたり、はたまた江戸時代に飛んだりと、かなり自由度の高い世界を繰り広げていたのだ。
ドッジボールをすることくらい、ぼくらにとっては当たり前のことだった。
それにしてもサッカーやゴルフならともかく、ドッジボールという種目を選んでいる辺りに時代性を感じる。
10代〜20代の方には分からないかもしれないが、ぼくが小学生だった頃、とにかくドッジボールが流行していた。
何がきっかけだったのかは分からない。
ただ、コロコロコミックでは「ドッジ弾平」という漫画が大人気になり、他にもガンダム仮面ライダードッジボールで戦うゲームも存在していたほどだった。
ただ、言うまでもなく、ドッジボールはスポーツの一つである。
ボールを相手にぶつけ合うという少し危険な内容であるからこそ、顔面を狙うのは禁止、同じ相手ばかりを攻撃しない、などのルールは厳密に守られていた。
しかし、熱血高校ドッジボール部においてはそんなもの存在しない。
やるかやられるか、食うか食われるかのデッドヒート、互いに全身全霊をかけて殺すつもりでボールを投げて、最後まで試合場に立っていたものが勝利者なのだ。
何せ双方のチームの選手一人一人には「必殺シュート」なるものが用意されていた。
必ず殺すと書いて必殺である。
もはやこれはドッジボールではない……と書くと稲妻の名を持つあるゲームを彷彿とさせるが、正にその通りであった。
しかしこの殺伐とした世界観が、小学生男子のぼく達に火をつけた。
誰かがソフトを買ったのをきっかけに放課後、どこかの家に集まってひたすらに修羅の国が如きドッジボール対戦を繰り広げる日々が始まったのである。
「うらぁ、死ねぇッ!!」
「そんなワザ効くか! ぶっ殺せえええ!」
どう考えてもドッジールをやってる奴らが発するべきではない声が、当時、毎日のように響き渡っていた。
そうして飽きることもなくコントローラーを握っては死闘を展開していると、ぼくらはあることに気付き始める。
熱血高校ドッジボール部ではストーリーモードと対戦モードが用意されていた。
そして、前者では主人公の属する「熱血高校」しか使えないのだが、後者でのみ、敵、即ち外国チームを使うことが出来るのだ。
その中に、必殺シュートが物凄く強いチームがあった。
よく覚えていないのだが、ロシアだかドイツだかだったと思う。
とにかくそいつらを使えば、勝率が上がるのだ。
よってぼく達の中で、誰がいち早くその国を選ぶかという新たな戦いが幕を開けた。
とにかくゲームをスタートし、チームをセレクトする場面に移動したら、即座に行動を移す。
そうしなければ強い外国チームを選ばれてしまい、負けがほぼ確定してしまうので、必死だった。
今考えれば他のチームだってやりようによっては負けなかったと思うのだが、小学生男子の単純脳には「必殺技が強い奴が一番」という概念がこびりついていた。
ドラゴンボールにおいて味方に新キャラが出る度、ごっこ遊びで激しい役の取り合いが行われたものである。
大体、ゴクウ→トランクス→ベジータ→ゴクウ→ゴハン、みたいな移り変わりだった。
ともあれ、ゲームを開始する前に勝敗が決まるという圧倒的な緊張感の中、ぼくらは一進一退を繰り返し続けた。
しかしその中において、異常なまでにチームセレクトが上手い奴がいた。
仮に山口君としておこう。
山口君は、え、腕が機械になってんの? という常人離れしたコントローラーさばきで、いつも誰よりも早く一番強いチームをセレクトしていた。
大人であれば譲り合いの精神を持つが、そこは子ども、本当に遠慮なく、容赦無く、他の追随を許さぬほどに、山口君は一度もこちらに選択権を委ねなかった。
それが何度か続いた時のことだ。
さすがにぼくらの間でも「こいつまじでなんなんだ」というか空気が流れ始めていたが、ついに一人がキレた。
仮に田上君としておこう。
山口君がいつものように強いチームを選んだ瞬間、
「てめえ、そればっかり選んでんしゃねえぞえやあああああ!」
と後半ちょっと何言ってるかわからない感じで田上君が山口君に掴みかかった。
山口君は山口君で、
「だってこれが一番強いもん!!!」
と「せやな」としか返せない言葉をぶつけ、二人は取っ組み合いになった。
結局のところ、ぼくらが止めて事は済んだのだが、その日は喧嘩別れのようになって解散することになる。

ゲームは人と人を繋ぐ力を持つが、それによってマイナス的なことが起こることもあるのだ。
何事も冷静にならねばならないなぁ、としみじみ思い、ぼくらが一つ大人になった事件でもあった。

 

終わり

次回:ファイナルファンタジー