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ライトノベルを中心に活動中の作家、空埜一樹のブログです

曖昧ゲームコラム2:スーパーマリオブラザーズ

スーパーマリオブラザーズ

発売日時:1985年9月13日
発売元:任天堂
対応機種:ファミリーコンピュータ

 

言わずと知れた超有名アクションゲームのシリーズ第一弾だ。
正確に言うとゲームボーイ版のマリオの方が早かった気もするが、取り敢えず据え置き機では初ということにしておいて欲しい。下さい。頼む。
テレビゲームをやっていない人でも、主人公でヒゲなマリオのことぐらいは聞いたことがあるだろう。それくらいに知名度は高い。
タイタニックを観たことがなくてもレオナルド・ディカプリオは知っているのと同じようなものだ。
ちなみにぼくはレオナルド・ディカプリオブラッド・ピットの区別がつかない。
元からハリウッド俳優の名前と顔がどうしても覚えられないのだが、頭の中で「なんか金髪でイケメンの人」というカテゴリで一緒くたになっているらしい。ファンの人がいたら申し訳ない。
「あの『ジョー・ブラックをよろしく』って映画がすごく好きでさ」
と得意げに言っても、
「ほら、レオナルド・ディカプリオが主演の」
と続けてしまい、「ブラッド・ピットだよ」という呆れた答えが返ってくる。その時の相手の目は北極の風が如き極寒に満ちていて、完全にこちらの言葉を信用していないのが容易に伺える。でも好きなのは本当なんだ。そこに嘘はないんだ。
まあ、ブラピのことはいい。今回はスーパーマリオブラザーズだ。
マリオは知らない人がいるかもしれないが本来の職業は配管工だ。故に彼はツナギを着ている。
その配管工が亀の化け物であるクッパにさらわれたキノコ王国の姫、ピーチを助けに行くのがスーパーマリオブラザーズのメインストーリーである。
今書いていて思ったが、割と奇想天外なお話だ。
たった三行の中に「なんでだよ」と突っ込みたくる部分が幾つもある。
そもそもなぜ屈強な戦士や経験豊富な傭兵ではなく配管工のおじさんなのかとか。
配管工とがお姫様とか割と現実に沿った内容なのにいきなりでかい亀の化け物という存在が当たり前のように出てくるのはどうなんだとか。
いやキノコ王国なら姫もキノコじゃないのかとか。
でもそんなことは構わない。日本には便利な言葉がある。
イッツア「無粋」だ。
そう、そんな指摘は本当につまらない。
配管工のおじさんが亀の化け物にさらわれた姫を助けに行く。
それが前提だ。いちいち難癖をつける必要はないし、つけるのは非常にナンセンスだ。
アンパンマンが飛べるのはヒーローだからだ。他に理由はない。
それと同じなんである。
閑話休題
スーパーマリオブラザーズをプレイしたのはファミコンを買ってもらって少ししてからなので、多分、7歳か8歳の頃だ。
猿のようにはまっていたことを覚えている。
ひげのおじさんを操ってステージをクリアしたところで何も得ることはないし、明確なシナリオがあるわけではない。
ただただ、一面ごとに難易度が上がって行くだけの話だ。
しかしそれがなんともたまらなかった。
思うにアクションゲームは己との戦いなのである。
何も手に入れない、諦めることはいつでも出来る。
しかしだからこそ少しでも先に進もうとする。
苦労して努力して何度もくじけそうになりながら頑張って、ようやく達成する。
その時に沸き起こるカタルシスには、物質として得るものが到底及ばないほどの気持ち良さが存在する。
だから人はアクションゲームをプレイするのだ。
……と偉そうに書いたが当時のぼくがそこまで考えていたわけじゃない。
ただ単に他にすることがなかったし飽きるという概念が理解できないアホの小学生男子だっただけだ。
だがそのアホで学習能力の無い小学生男子にも、ある日、壁が立ちはだかる。
はっきりと記憶しているわけじゃないが、ある面から進めなくなったのだ。
どうしてもクリアできない。何をやってもクッパが倒せない。
当時のクッパは今と違って多彩な攻撃を仕掛けてくるわけじゃ無かった。
橋の上でたまにジャンプして火を吐くだけだ。
しかも律儀にこちらが行くまで砦の奥でずっと待っている。
そこには決闘相手を待つ武士のようなストイックさがあった。
今では待機場所から火を吐いて、こちらがスタート地点にいる時から攻撃してくるのだから、彼も変わったものだ。
ひょっとすれば私生活が上手くいっていないのかもしれない。
子供が結婚し孫ができたものの嫁との確執があり中々実家に帰ってきてくれず、たまにプレゼントを贈っても「センスが悪いからおじいちゃんの買ってくれるものはいらない」と冷たくあしらわれているのかもしれない。
彼は待ち続ける人生に飽きたのだ。
せめて宿敵とぐらい、マリオに対してぐらいは積極的にいこうじゃないか。
そう決意したんだろう。
滅茶苦茶迷惑な話だけど。
ともあれまだ自分の未来に自信があった時の彼は単純な動きしかしなかったが、それだけにアクションが読み辛かった。
基本的にスーパーマリオブラザーズクッパの攻撃をかいくぐり、橋の端(洒落じゃない)にあるスイッチを押すことで、足場を崩し、彼を下のマグマに落とすことでステージクリアとなる。
しかしそのクッパをかいくぐると言うのがなんていうか、タイミングが非常に難しい。
いつ走ればいいのか掴みにくいのだ。
そのせいがあって(他に理由もあったと思うが)ある面から先に進めなくなった。
どうしよう。このままでは全面クリアの夢が果たせなくなってしまう。
困っていたぼくだったが、そこに救世主が現れた。
年の離れた親戚の兄ちゃんが何かの理由でうちに来た時、ぼくがマリオをやっているのを見て言ったのだ。
「なんや、そこからワープできるで」
ワープ????
その時のぼくは全く未知の言語を聞いた気分になった。
ワープと言えば大長編ドラえもんの宇宙開拓史でそういうものがあったことは知っていた。
しかしそれがどうマリオに繋がってくるというのだろう。
訳が分からなくなっているぼくを尻目に兄ちゃんはコントローラーを手にマリオを操り、いきなりステー上部にある天井の更に上へ行った。
驚天動地とはこのことである。
常識が覆された瞬間であった。
ぼくからすればアニメのキャラがこちらに対して「お前まじで味噌汁拭いた後で一ヶ月ほったらかしにした雑巾みたいな顔してるな」
と突然に言ってきたようなものだ。そ、そこまでじゃねぇし!
呆気にとられるぼくの前でマリオはどんどんと天井を進み、ある地点で下に降りた。
そこに土管が三つほど並び、上の方に数字が書かれている。
何これと思っていると兄ちゃんはそのうちの一つの中へと入った。
ギュンギュンギュンというお馴染みの音ともに再び現れたマリオは、なんと、三つほどステージを飛ばしていたのだ。
一体何が起こったのかと口を開けているぼくに対して兄ちゃんはにやりと笑った。
「これがワープや」
ひ、ひ、ひ、ひえええええ!
なんてテクニックやあああああ!
これに比べたら空埜はんのプレイはカスや!
腰をぬかさんばかりに驚いたぼくは、その後、兄ちゃんのおかげで8ー1までいけた。
いやまあ、結局、ラストステージのクリアは出来なかったのだが。
それでも「ステージを何もせずに攻略したことに出来る」と知ったのは衝撃だった。
ちょっと大人のズルさというか、世の中の上手い仕組みを知った気分になって、嬉しくなったものだ。

ただ、しばらくして友達に「あのさぉ、へへっーーワープって知っとる?」とドヤ顔で言ったら、全員が「うん。何回もやってる」と答えたことにより、ぼくはその場でうずくまるレベルで恥ずかしくなるのだが。

 

終わり

次回:スーパーチャイニーズ3