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ライトノベルを中心に活動中の作家、空埜一樹のブログです

曖昧ゲームコラム 10:俺の料理

俺の料理

発売日時:1999年9月9日
発売元:ソニー・コンピュータエンタテインメント
対応機種:プレイステーション

 

現在発売されているゲームは星の数ほど存在するが、作品によってそれぞれジャンル分けされている。
RPG、アクション、シューティング、アドベンチャー、スポーツ、パズル、リズム、シミュレーション……などなど、数え上げればキリがない。
ただ、それだけの類型がなされているにも関わらず、そのどれにも属さないものもあった。
ゲームショップなどで主に「その他」のコーナーに入れられる作品だ。
扱う側が「これはどういうゲームなんだろう」と悩んだ結果、判断あぐねてそうせざるを得なかったのである。
ファミコン時代、ちょうどテレビゲームが一般に広まり始めた頃に一番多かった気がする。
だが時代が移り、次世代機が中心となると、その数も少しずつ現象していく。
ただ、その中において尚、独自の道を突っ走り、突っ走り続けて、崖スレスレを高度なテクニックでどうにか走り抜けたツワモノもいた。

「俺の料理」というゲームがその一つだ。
タイトルを初めて観た人は、きっと頭の中が疑問符でいっぱいになっていることだと思うので、ちゃんと説明する。
料理を作るゲームである。
「だからなに????」
と、やはり聞いた人は首を傾げ、なんならちょっとイライラし始めているかもしれない。
よって更に詳しく解説しよう。
コントローラーを駆使して、ラーメンや、ハンバーグや、天ぷらや、ソフトクリームを作るゲームなんである。
そろそろ拳が飛んできそうだ。ちゃんと言います。

いわゆるグルメ漫画などでは、しばしば「料理対決」といったものが行われる。
美味しんぼでの「究極のメニューVS至高のメニュー」然り、ミスター味っ子での「味将軍グループVS味吉陽一」然り、OH!MYコンブにおける「闇の味帝国編」然りーー。
主人公が実力者の料理人と激しく火花を散らしながら、どちらの腕が優れているか競い合うわけである。
俺の料理は、その展開をそのままゲームに持ってきたようなものだ。
主人公は料理人である。
彼は、様々な料理屋を渡り歩きながら、そこで凄まじい腕を持つライバルと激闘を繰り広げるのだ。
勝利の条件はただ一つ、相手よりも多くの客を料理で満足させること。
そして、その料理をプレイヤー自身が、様々な手順を経て作り上げるのである。
制限時間内で、材料を切り、煮込み、焼き、ひっくり返し、器に入れる。
全てを素早く、それでいて丁寧にこなさなければ、敵に勝つことはできない。
君は果たして料理人の頂点に立てるのかーー!

と、壮大なように書いているが、実際は普通にゲームでごはんを作っているだけである。
魔王を倒すこともなければ、エイリアンを撃つわけでも無く、難解な事件の謎を解いたり、悪霊を退治するわけでもない。
おまけにヒロインはちびまる子ちゃんのお母さんを彷彿とさせるパンチパーマのおばちゃんのみである。
あまりにも地味だ。
でも、これが、実に面白かった。
妙な中毒性があったのだ。
ぼくがなぜこの「俺の料理」を購入したのかは、未だ持ってまるで覚えていない。
当時、食べるのは好きだが料理なんてろくにやったこともなく、別にやりたいとも思わなかったぼくが、どういった経緯でこのソフトに自腹を切ったのか、深い謎に満ちている。
すこぶるどうでもいいので解き明かすつもりもないが、ともあれ、ぼくは何気無くやり始めたこのゲームに見事にハマった。
寝ても覚めても料理対決、学校から帰ればラーメンを作り、ご飯を食べては天ぷらを揚げ、風呂に入ればハンバーグを焼いた。
文章だけ読めば天才少年料理人のようだが、実際はコントローラーを握って背中を丸めているだけだ。
中学だか高校だかの若者が、ひたすらにアイスクリームや生ビールをうまく注ごうと心血を注いでいる姿は、ある種、異様なものだっただろう。
それでも、そんなに些細なことなんて気にならないくらい、楽しく遊んでいた。

ぼくの癖というか、他の人にもあるとは思うが、面白いゲームを見つけると、似たジャンルがやりたくなる傾向にある。
だが、俺の料理に似たジャンルなんてない。
俺の料理は俺の料理でしかなく、同じ作品は二つとなかった。
唯一無二の「お料理作りゲー」とでも言おうか。
あれから10年以上経ったが、続編はおろか、リメイクでする出ていない。
その後、俺の料理に続こうというメーカーも存在していなかった。
それほど異色のものだったのだろう。
あるいは、それほど数が出なかったのかもしれない。
ただ、例えそうだったとしても、ぼくの心には強烈なまでにその個性が刻み込まれた。
数字よりも記憶に残る作品を作るのが大事、なんてお題目は、綺麗事でしかないというひともいる。
それでも、やっぱり、思い出の中で薄れない魅力を持つ作品は大切だ。
俺の料理は、そういうことを教えてくれた作品だった。

余談だがこのゲームをやり込みまくって、自分が凄腕の料理人になったような気分になった為、得意げに家の台所に立ったことがある。
が、まったくといっていいほどに、ろくなものを作れやしなかった。
現実にもコントローラーがあったらいいのに、とバーチャル世代のようなことを思った次第である。

さて、と言うわけでこの「曖昧ゲームコラム」は今回をもって、終了になる。
よりによって最後が俺の料理って、と思う人もいるかもしれないが(いや間違いなく名作ではあるんだけど)一応の目処をつけたというだけで、また気が向いたから書くかもしれない。
ただ、取り敢えず、しばらくは別のものを書こうと思っている。
それが小説なのかあるいはコラムなのかは気分次第ではあるが、また気が向いたら載せるので、読んで頂けると幸い。
それではまた会う日まで。

 

終わり