空ノページ

ライトノベルを中心に活動中の作家、空埜一樹のブログです

曖昧ゲームコラム6:ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁

ドラゴンクエスト天空の花嫁

発売日時:1992年9月27日
発売元:エニックス(現:スクウェアエニックス)
対応機種:スーパーファミコン

 

もしも突然見知らぬ男から銃を突きつけられ、
「お前が今までやってきた中で一番好きなドラクエはなんだ! 答えろ! 答えなければ殺す!」
と脅されたとしよう。
ぼくは迷いなくクリスチャン・ベール並のテクを繰り出し銃を逆に奪い、華麗にガン・カタで圧倒した後で、銃口を突きつけこう返すだろう。
「よく聞け、ドラゴンクエスト天空の花嫁だ」
と。

「またそれか」という声が聞こえて来そうな気もするが、つまりはそれほど好きなシリーズである。
ドラゴンクエストは言うまでもなく世界的にも超人気のPRGだが、今までに十本のシリーズが作成されている。
そのため、人によって好みが分かれるところなのだが、ぼくはⅤが一番だと思っている。
生まれて初めてやったドラクエがⅤだったというのも大きいが、それ以外でもこの作品はある大切なことを教えてくれた。
RPGでは、時にプレイヤーに対して選択肢を求めるイベントが起こることがある。
それは村人からの他愛ない質問であったり、もしくは仲間や敵から向けられるものであったりするが、大体の場合はその結果で大きく何かが変わるわけではない。
また、失敗したなと思っても取り返しのつくこともある。
そして、現実でも選択を迫られる瞬間というものはあって、人は嫌でも何かの答えを自ら手に取らなければならない。
だが、その場合、後戻りができることは少ない。
たとえそれが誤りであり、想定してたのとは全く違った展開が待ち受けていたとしても、無かったことには出来ないのだ。
それが人生である。
ただ、そんなものは歳をとってから分かることで、子どもの時分にはそれほど自覚することはないし、する必要もない。
ぼくだって取り返しのつかないような選択なんてものは、経験したことがなかった。
ドラクエⅤをやるまでは、だ。

以前「ドラクエで一番不幸な主人公は誰か?」という議題で話し合ったことがある。
他にやることなかったんかいと突っ込まれたらそうですが何か? とメガネをくいくいと指で押し上げる泰然自若なぼくだが、とにかくこれが割と揉めた。
個人的にⅣかⅤが際どいところだが、僅差でⅤだと思う。
何せドラクエⅤの主人公は、幼い頃に父親を目の前で殺され、以後10年間をその仇によって奴隷にされて過ごし、やっと解放されて結婚し子どもが生まれたと思ったら敵によって夫婦共々石像にされ、目覚めた時には子ども達は既に大きくなり奥さんは未だに石のままという運命を辿るのだ。
朝ドラの主人公もかくやとばかりの試練の連続である。
物語を盛り上がらせるには主人公へ常に波乱を与え続けることだ、とは以前読んだ物の本に書いてあったことだが、それにしても与え過ぎである。
ぼくだったら奴隷になった時点で何もかも嫌になって地面に生えてるタンポポの花の数だけ数えて生涯を終えると思う。
しかしその不幸にめげず、仲間達と共に巨悪へと立ち向かうからこそ、ドラクエⅤの主人公は逞しく、そして格好良く思えるのである。

で、ここにきて注目したいのが上記の文章内にあった「主人公が結婚する」という部分だ。
そう、ドラクエⅤにおいて主人公はストーリーの途中、異性と婚姻関係を結ぶことになる。
これは当時のRPGでも無かった展開で、非常に驚いたことを覚えている。
しかも主人公には結婚候補が二人いて、どちらかをプレイヤーが選ばなければならないのだ。
更に言うと、一度選んでしまった以上、やり直すことはできない。
結婚してからラスボスを倒すまでは、ずっとその人と共に生きることになるわけである。
これには相当悩まされた。
何せ二人のお嫁さん候補は、どちらも魅力的な人物だからである。
一人目はビアンカ
主人公より歳が上で、幼い頃に出会い、一緒に幽霊城で冒険を繰り広げた仲である。
勝気だが明るく元気で前向きな、頼れるお姉さんキャラでもあった。
二人目はフローラ。
大金持ちのお嬢さんで、大人しいが清楚で可憐な、ついつい守ってあげたくなるキャラである。
どちらもそれぞれ違った可愛さがあり、それ故に散々迷わされた。
これは何もぼくだけではなく「ビアンカとフローラ、どちらを選ぶべきなのか」という議題は、ドラクエⅤをやった人全員が侃侃諤諤となりつつも、一向に決着を見ないまま終わるという、非常に難しい問題なのである。
ちなみにぼくは結局、ビアンカを選んだ。
というかあくまで個人的な意見だが、今になって思うにドラクエⅤはなんとなく、ビアンカを選ぶよう仕向けられている気がする。
何せ彼女は幼馴染でよく見知った間柄である。
一方フローラは、大人になってから出会った、知り合って間もない相手だ。
その影響か、結婚前夜に双方の家を訪れると、ビアンカは不安の余り眠れずに窓際で黄昏ているが、フローラはすやすやと熟睡している。
更にいうとフローラにはアンディという幼馴染がいて、彼はフローラが好きなのだ。主人公がビアンカを選ぶと、彼女はその後、アンディと結婚する。
しかしビアンカに特定の相手はおらず、主人公がフローラを選んだ場合、生涯を山奥の田舎で寂しく暮らすことになる。
ついでに言うと彼女の父親は病気で寝たきりになってるのだが、主人公がビアンカを選ばないと死ぬ。
もう完全にビアンカと結婚しないと主人公が極悪人になる流れである。
それでも尚フローラを選ぶ! という人にたまに会うのだが、スーパーマンのごとき鋼の精神を持っているか、心そのものを失っているかのどちらかだと思う。
中には「フローラと結婚しないと天空の盾をもらえない気がした」という人もいた。これは納得のいく話だ。
ドラクエⅤはそれまでのシリーズとは少し趣きが違っていて、主人公=魔王を倒せる勇者、ではない。
主人公は父親の意志を引き継ぎ、来たるべき勇者の出現に備えて、その者だけが装備できる伝説の武具を集めて旅をすることになる。
そのうちの一つが天空の盾であり、所有者はフローラの父であるルドマンだった、というわけだ。
彼はそれを娘の結婚相手に譲ると言うのである。

大人の嫌な読みをすれば天空の盾がなければストーリーが進行しないので、もらえないわけはないのだが、子供の時にそんなことまで分かるわけがない。
よってフローラを選ばざるを得なかった、というわけだ。
これは「己の目的の為に、好意を向けているのとは違う相手と結婚する」という、大人の世界ではたまにある(かもしれないと一応言っておく)ことであるが、その考えを子どもに芽生えさせるとは、色々と奥深いゲームではあった。

ただまあ、ぼくは初プレイ当時、そんなことにまで考えが回らず、ひたすらにどちらも可愛いのでどちらにしようか苦悩していただけだった。
「人生にはどれほど辛くても、どちらかを選ばなければならない時が来る」
それを最初にぼくへと教えてくれたゲームが、ドラゴンクエストⅤだったのだ。

ついでいうと迷いすぎて分からなくなって勢い余ってルドマンを選んでしまった、というのは、良い思い出である。(普通に断られた)

終わり

 

次回:熱血高校ドッジボール部